リンク: 第1回 燃料電池車はEVよりも何が優位か? - 設計力向上 - 日経テクノロジーオンライン.(2015/01/28)
トヨタ「MIRAI」の開発責任者、田中義和氏が、インタビューの中で燃料電池車が電気自動車よりも優れている点を以下のように述べています。
・(電気自動車は)現時点では、航続距離に制限がある(燃料電池車は航続距離が長い)
「現時点では」と述べている辺りは、将来の不確定さを表しているのでしょう。
北米国際自動車ショー2015でお披露目されたシボレー「ボルトEV コンセプト」は、航続距離200マイル(約322km)を目指していますから、シボレーはそれだけの電池性能の向上を見越しているのでしょう。
・クルマとしての使い勝手(がよい)
・MIRAIはガソリン車並みの約3分で水素をフル充填できる
「フル充填に3分」は燃料電池車の紹介によく出てくるフレーズですが、電気自動車の「急速充電設備を使えば30分程度で充電できますが、前に2台いたら1時間半」かかると同じような問題は、燃料電池車でも本当のところはかかえているようです。
水素の充填に関する問題点は、舘内端氏の「トヨタの危機」(P251)に詳しくありますが、「3分」というのは、あらかじめ大量の水素を作っておいて、それを何本もの水素ボンベに蓄えて置いた場合にのみ可能です。
燃料電池車の水素充填量は約5キログラムだそうです。(122.4リットル)3分で5キログラムの充填を連続して行うには、単純計算で30分で50キログラム(10台分)、1時間で100キログラム(20台分)の水素が必要ですが、水素ステーションがオフサイト型の場合は、この備蓄分がなくなれば配送されるのを待つしかありません。
(オフサイト型 :ほかの場所で製造した水素をステーションまで運んできて水素タンクに貯蔵しておき、そこから直接燃料電池車に充填するシステム)
昭和シェル・岩谷産業の有明水素ステーションは、液体水素を10000L貯めることができるそうで、1台には10分以内に充填できると一番下の資料にあります。(液体水素で130台、圧縮水素で200台分)
(ガソリンスタンドは30KLが基本貯蓄容量だそうで、40Lのタンク容量のガソリン車なら750台に給油可能)
水素ステーションには、都市ガスなどの燃料から水素を製造する方式「オンサイト方式」もありますが、こちらはもっと連続充填が難しくなります。
ホンダが「さいたま市東部環境センター」に設置した水素ステーションの水素製造能力は1日24時間で1.5kg、パッケージ内には約18kgの水素を貯蔵することができるそうですが、5キログラム充填が可能な燃料電池車は3台まで、その後の車は水素が製造されるまで満充填に1日以上待たなくてはなりません。
ホンダのこの水素ステーションは、コンパクトなタイプなので例外としても、メタノール水を改質する川崎水素ステーションは、2000Lの水素ガスを蓄えることができるそうですが、乗用車には連続5台までしか、供給能力がないとありますし、ましてや製造能力は1時間に4.5キログラムですから、6台目は充填に1時間近く待たされることになります。
このあたりは、田中氏が「現状では水素の供給インフラが未整備なので使い勝手に制限があります」と述べている点に相当するのだと思います。
これに対して電気自動車は、何台来ようがほとんどの車が30分で80パーセント充電することができます。(車種や外気温などの条件によって充電時間や充電量は左右される)
上記の2点、燃料電池車の優位性を語りながらもインタビューの冒頭では以下のように述べていますから、トヨタから「i-ROAD」や「コムス」以外の電気自動車が将来出てきてもおかしくありません。
我々はEVを否定するつもりは全くありません。特に近距離のコミューターとして使うには最適だと思います。明日使う電気を夜寝ている間に家で充電できますから。電気は家まで来ているので、こうした使い方ならインフラの問題もありません
また、「トヨタ自動車も電池研究部という組織をつくって全固体電池などの研究を進めて」いるとしていますから、電気へと流れが変わった場合の保険は十分にかけているようです。