リンク: エコカー戦争、EVはFCVに絶対勝てない理由 利便性と燃料充填で圧倒的な差 | ビジネスジャーナル.
記事は山田修氏という経営コンサルタントの方が書いたものですが、EVのことを少しは知っている者であれば、つっこみどころ満載の記事です。その内容は、EVは専用のコンセントを設けることは難しく、充電も手間がかかるので、「利便性と燃料充填」で考えた場合、燃料電池自動車(FCV)はEVよりも早く普及するだろうという内容です。「普及」するかどうかは別の問題もありますが、ここでは「コンセント」「充電の手間」についての誤解を解いておきたいと思います。
家庭用100V電源で設置できる設備は「普通充電器」
まず、筆者のいう「家庭用100V電源」で「専用の充電設備」はまず設置されません。そのほとんどが「200V」です。これは、部屋のコンセントが100Vであるところからくる誤解で、現在では、食洗機やエアコンのためにほとんどの家庭で分電盤まで単相AC200Vが供給されています。そこで、EV購入者はその200Vを使って「専用の充電設備」を設置しています。
i-MiEV 充電コンセント工事完了(2011/08/17)
ですから、「EVをゼロの状態からフル充電するまで7~8時間を要する」のは、200VのEV専用コンセントを使っての時間であり、100Vコンセントだとその倍の時間がかかります。充電に約15時間もかかってはさすがに実用的ではないため200Vを使うことになっています。(電池容量の少ないiMiEVのMグレードでは、4.5時間)
また、この充電時間について、「毎日帰宅するごとにマイカーにプラグ接続し、朝まで置いておかなければならない」と大ざっぱに書いていますが、「朝」を6時とすると充電のスタートは最大で前日の22時です。
この帰宅時にEVの充電口を開いて充電プラグを差す作業をするのですが、私は充電コードの一方を壁にある充電専用コンセントに差しっぱなしにしているので、コードのもう一方の充電プラグを持ってきて、EVの充電口に差し込む作業はほんのわずかな時間です。停車してからだともう少し時間はかかりますが、それにしても30秒までで作業は終了します。
また、EVの使用方法によっては「毎日」の充電は必要ありません。私の通勤距離は1日で往復30キロ弱ですが、夏場は3日に1回というところです。冬場だと2日に1回が平均です。
このように文字にすると充電作業は長く感じますが、携帯電話を充電する作業を思い浮かべれば、プラグ接続はほぼイメージすることができるでしょう。筆者は「帰宅するごとにマイカーにプラグ接続し、朝まで置いておかなければならない」と面倒な作業のように書いていますが接続方法によっては、また携帯充電が面倒でなければ、ガソリンスタンドへ寄る必要がなくなる分、自宅での充電は快適です。(うっかり接続を忘れた場合は、朝困惑しますが)
家庭用配電盤は通常10A程度であり、最大に増やしても20Aである
これはうーんと唸ってしまう記述です。10A契約の家で全室のクーラー・食洗機・電子レンジを使いながら、充電すればブレーカーは落ちるかもしれません。
筆者の家にクーラーがないとは思えないのですが、一般的な戸建ての家庭における契約アンペアは30A~40Aくらいに設定されていることが多いのではないでしょうか。私の家でも40Aとなっています。
私の家での充電は時間帯によって電力量料金単価が安くなる「はぴeタイム」プラン(11.07円/1kWh)の23時から7時までの時間帯に行っています。時間が生活時間とはずれていますから、ブレーカーは落ちたことがありません。(筆者はコンセントの容量15A・20Aと誤解しているのではないかと思います)
たとえば、東北電力管内で最も多い契約メニューは「従量電灯B」だそうですが、その契約アンペアは、10アンペア~60アンペアの範囲のようです。その基本料金は、10Aで324円ですが、一般的な家庭の30〜40Aでは972〜1296円ですから、毎月の基本電力料が「大幅」に上がるということはないでしょう。
外部スタンドとなる充電ステーションが経済合理性を有するためには、対象であるEVのクリティカル・マス(市場成立のための最低必要量)が必要となる。よって、普及していくにはまず大都市からとなる
「まず大都市からとなる」と筆者はいいますが、上記のように自宅の専用充電器設置は難しいことではないですから、地域が限定されることはありません。急速充電器の整備も進んでおり、私の住む田舎でも複数の急速充電器が設置されつつありますから、外部スタンドという面でも地域差はなくなりつつあります。もともとEVの充電は自宅が基本ですから、戸建てとは限らない大都市では、充電コンセントを設置することの難しさが逆にあります。
自家用車オーナーのどれだけが自宅に駐車場と専用充電器を設置するかがカギとなる。当然設置のためには外構工事が必要となるが、現行の充電設備費補助制度は個人住宅を想定していない
筆者は充電コンセントの設置には高額な費用がかかるとの思いがあるのかもしれませんが、方法によっては安くあげることはできます。私の場合は必要のないものまで附属させたために約8万4千円かかってしまいましたが、コンセントだけなら3500円(税抜)です。i-MiEV 充電コンセント工事完了(2011/08/17)
他にも自動車メーカーやディーラーによっては、「充電設備設置費用支援キャンペーン」のようなものを実施している場合があり、このような場合には、設置費用を低く抑えることができます。いずれにせよ、EV車両本体へのような国の補助制度がなくても、コンセント設置のために多大な費用負担が発生するということはありません。
FCVとEVを比較する場合、このような消費者目線の便宜性議論が有用で必要である
最初の市販車EVである三菱の「iMiEV」が発売されてから5年以上たちますが、「消費者目線」はあいかわらずこの辺りであるということをくしくもこの記事はよく表しています。しかし、こうした例を良いように解釈すれば、三菱や日産はEVの販売戦略をいまいちど見直す時期にきているのかもしれません。
「企業を再生する経営者」として有名な方でさえも、この程度の知識しか持ち合わせていないのですから、一般的にはもっと売れてもよい車への誤解はとても多いと考える方が妥当です。山田さんの「MBA経営 公式サイト」の言葉を借りるなら、「やり方を変えろ! 経営戦略はそれが すべてだ」だそうですから。