10月19日に滋賀県長浜市の長浜バイオドームで開かれている「琵琶湖環境ビジネスメッセ2016」のセミナー「次世代自動車を活用したスマートコミュニティ」を聞いてきました。

電気自動車はガソリン車に比べはるかに燃費(電費)がよいのですから、「しがエネルギービジョン」にも「次世代自動車の普及」が「エネルギーを『賢く使う』」項目の「エネルギー高度利用推進プロジェクト」の中に入っています。今回のセミナーでは、その「次世代自動車」を活用するという講演などが含まれていたために、興味を引かれて聴講してきました。

最初にデンソーの担当者から「次世代自動車を活用したスマートコミュニティ」と題した基調講演がありました。

内容は、HEMS(Home Energy Management System)に電気自動車等を組み込み、街単位で効率よく電気の出し入れを制御するという「スマートコミュニティ」の基礎知識を確認するものです。

その中に、電気自動車等で電気を使うといっても、その電気はどこからきたものかを吟味しておかないといけないという話がありました。電気自動車はCO2の排出がなくても、火力発電所でCO2を排出していては、本来CO2が減ったことにはならないというものです。これは、電気自動車の環境性能を批判的にとらえる論調にありがちな話です。しかし、「できるだけ」CO2を減らす方策が重要とも触れられていたように、もともとガソリン車よりは効率がよいのですから、同じ距離を走った時に『賢い』のはどちらか明らかです。

Img_2148(試乗体験コーナーにあったトヨタ車体のCOMS(コムス))

興味深かったものは、非常用の電源として、電気自動車に貯めた電気を使う場合の考え方です。

東日本大震災時の経験として、一番必要としたのは、携帯の充電用コンセントと暗闇を解消する簡単なLED照明だったそうで、V2H(Vehicle to Home)のように自動車と家とを結び、家の電気系統を普段通りに使えるようにすることではなかったということです。

災害時の充電用コンセントとLED照明電源だけなら、緻密な制御をしているためにコストがかかり、割高なV2Hは必要不可欠な物ではありません。(ビジネスメッセというくらいで、商売のネタを提供する場なので、もちろん否定的なニアンスではなかった)

そこで、考えられているのが、「ピコグリッドシステム」と呼ばれるものです。小規模な太陽光発電と蓄電池、超小型電気自動車を活用して独立型のシステムを組むものです。また、その超小型電気自動車のコムス等を「移動する電源」として、車の12Vの電気をインバーターで昇圧してコンセントを使えるようにしようというものです。これなら、いち早く復旧することが多い電気を待つ数日間をしのぐこともできますし、電気が復旧した後に移動電源車としてや移動手段、運搬業務などの活動をすることができます。

100Vを提供するインバーターさえあれば、ガソリン車でもよいのですが、東日本大震災時にガソリンが不足したように、ガソリン車では持続的な活動に困難が生じることもありうるので、より現実的なのは、安価な超小型電気自動車ということなのでしょう。

問題は、超小型電気自動車の国の規格がなかなか決まらないことでしたが、国交省が走行規制緩和を進めるそうですから、電気自動車のカーシェアリングと合わせて、超小型電気自動車がこれからは見直されるかもしれません。

(蛇足ですが、デンソーの資料の中に映り込んでいた電気自動車は、三菱アイミーブでした)


次ぎに、大阪ガスの担当者から「EVを活用したスマートエネルギーハウスの取り組みについて」という講演がありました。HEMS(Home Energy Management System)の話など、基調講演と重なる部分が少なからずある講演でした。

実際にモデルハウスを作り、そこで生活をすることによってデータを得たそうです。その実験システムの写真に載っている電気自動車は、HONDAの超小型EVフィットEVでしたから、充放電を繰り返す実験後、それら電気自動車の電池の劣化具合はどうであったのかを質問したのですが、劣化は少なかったとのことでした。

大阪ガス担当者は、その電池メーカーがどこかを触れませんでしたが、フィットEVは、東芝のリチウムイオン電池「SCiB」を使っていましたから、予想通りの結果だといえるでしょう。

同じ東芝の電池「SCiB」を使っている私のアイミーブMグレードは、今年7月の2回目の車検の時点で走行距離が6万700キロを越えていましたが、電池容量残存率.(2016/07/25)は「105パーセント」でした。2011年8月18日から約4年11ヶ月で、約1191回(急速充電205回、自宅外での普通充電15回、自宅200V充電971回)充電を繰り返してきましたが、電池の劣化は感じられません。電池の使用条件は厳しくても、「SCiB」は、やはり優秀なようです。

Img_2147(会場に展示されていたクロネコのミニキャブ・ミーブ)


最後に、関西電力の担当者から 「電動車両等を活用したバーチャルパワープラント(VPP)の取組状況」と題した講演がありました。

バーチャルパワープラント」とは、電力系統に点在する機器をインターネットで結び、個々のサーバーデータを統合サーバで制御することにより(需給調整力を有効活用)、あたかも1つの発電所(仮想発電所)のように機能させる仕組みのことだそうです。調整できる設備を結びつける(アグリゲーター)事業だそうです。

電力会社と電気自動車とのつながりは、出力調整できない原子力発電所の電気が夜に余ることから、その受け皿として電気自動車に期待したのが、もともとの始まりですが、原発がほとんど動いていない今、電力会社は、電気自動車を電気の調整弁の一つとして期待しているようです。

説明によると、電気自動車は一般的に電気代が安い深夜の時間帯に充電をおこないますが、昼間でも電力が余ったときに、つながっている電気自動車に充電を始めるように指令を出すシステムのようです。

夜間など、電力に余裕が生じた場合には、その電力を使って下の調整ダムから上の調整ダムへと水をくみ上げ、電力不足が大きくなる昼間時間帯に、上から下へ水を落とし発電する揚水力発電所の役目を、電力需要・供給の平準化の役目を電気自動車に期待しているようです。

10)EVの普及がすすめば原発が必要になる(2013/06/29)

(蛇足ですが、大阪ガスの資料でも関電のでも、電気自動車の車両になぜかフィットEVが載っていました。フィットEVは、優秀な電池を使っていたにもかかわらず、市販されず現在は生産もされていません。「SCiB」を載せていたからこその採用かもしれません)


「セミナーを受講して」

しがエネルギービジョン」には、「次世代自動車の普及」が入っていますが、残念ながら滋賀県が積極的に「普及」をすすめているとは思えません。

電気自動車に関しては、県民生活部エネルギー政策課だけではなく、琵琶湖環境部温暖化対策課もその取組の中に組み入れられているようですが、具体的な政策が伝わってきません。たとえば、温暖化対策課には、「電気自動車・プラグインハイブリッド自動車用充電設備について 」というページがありますが、2016年9月16日更新と書いてあっても、その内容は古いままです。「一般に公開されている電気自動車等用充電設備をお持ちの事業者で、このページへの掲載が可能な箇所が御座いましたら、温暖化対策課まで御連絡お願いします。」とありますが、連絡を待っていても情報は集まらないでしょう。当ページの滋賀県内の充電器リスト(2016/10/19更新)だけでなく、EVsmartなどの充電検索・施設を参考にしたり、直接リンクしたりすれば、最新情報を得ることができるはずです。

もしくは、最新情報はスマホなどの検索サイトにまかせておいて、以下のような点の追跡が県としては重要だと思います。滋賀県は設置補助金を出してもらうためのビジョンリスト(PDF:232KB)(平成27年11月27日時点)を作成していますが、ここに載っても、その後設置されているかわからないところもあります。県としての状況把握をしてほしいところです。

エネルギー政策課がまとめた「しがエネルギービジョン◆エネルギーを「賢く使う」  (6)エネルギー高度利用推進(PDF:1,853KB)には、「電気自動車(EV)およびプラグインハイブリッド車(PHV)ともに、販売台数は着実に増加。」とありますが、今まで優遇政策はなかったのですから、増加に県の関与はなかったでしょう。また、「平成26年3月には県庁舎 に充電設備を設置。」 各地の合同庁舎に充電器は設置してありますが、すべて200Vの普通充電器ですから、いくら公開しているといっても、その利用頻度は極めて低いのではないでしょうか。民間事業を圧迫してはいけませんが、道の駅などや利用頻度の多い場所への2台目設置など、国の補助金とは別に急速充電器設置に補助金を出してもよいのではないかと思います。(事業者向けの次世代自動車購入補助金があることを始めて知った)

滋賀県次世代自動車充電インフラ整備ビジョンについて/滋賀県.」は2015年11月27日に更新が終了していますが、その後、「道の駅 奥永源寺渓流の里」など補助金が確定したところもあります。県民生活部エネルギー政策課と琵琶湖環境部温暖化対策課との連携を密にしていただき、ぜひとも「次世代自動車の普及」をすすめてほしいものです。大災害時には電気自動車は大いに役に立つのですから。

EVのデメリット.(2013/06/29)

東海・東南海・南海地震など大災害時には,沿岸部にある多くの発電所が停止することが予想され,その場合の電力不足が心配されています。このような時にもリーフが積む24kWhの電池容量があれば,一般家庭の2日分の電気をまかなうことができると言われていますから,リーフが100万台あれば100万軒の2日分が備蓄できていることになります。(三菱アウトランダーPHEVは,電池12kWhの満充電とガソリン満タン状態で最大約10日間の発電が可能)

主要な火力発電所、地震高確率地域に6割(2013年2月2日)朝日新聞(リンク切れ)

いつ来るかわからない災害に備えるため固定された発電機を用意しておくよりも,メンテナンスや利便性に優れたEVを普段から走らせておいた方がコストを抑えることができるでしょう。いろいろなリスクを分散させるためにも,EVの普及はこれからますます重要になってくるかもしれません。