リンク: 日本の自動車産業、"100年後も生き残る"ことができる? 次世代自動車の本命は? | マイナビニュース.(2014/07/09)

100年後、まだガソリンがあればガソリン車も生き残るでしょうし、EVも燃料電池車も生き残るというのが答えかもしれません。

しかし、「次世代自動車の本命は、燃料電池車」との密命を帯びているのか、「次世代自動車の本命は、燃料電池車になるとの見方が増えてきた」と著者は書いています。しかし、その根拠は曖昧で、つっこみどころ満載です。

まず、「見方が増えてきた」と書いていますが、その根拠は示されておらず、6月25日にトヨタ自動車が2014年度内に日本国内で発売すると発表したため、それにそった記事が増えてきたことをさして「増えてきた」と考えているのではないかとさえ思います。

著者の書いている記事は、EVと燃料電池車のメリットとデメリットを比較している点で、4年前の記事「もう1つの電気自動車、燃料電池車」(2010/03/05)Business Media 誠とあまり変わっていません。大きな違いは、Business Media 誠は「ハイブリッドカーの次ぎに燃料電池車、その次に電気自動車がくる」と考えている所ぐらいです。

5年前には電気自動車(電気だけで走る自動車)が本命と見られていたが、今は、電気自動車への期待は低下している

ここで重要なことは、誰の「期待」が低下しているかというか、誰が低下させているかでしょう。

「期待」を低下させているのは、EVが市販車リストになくガソリン車を多く販売している自動車メーカーと、それを支えるライターかもしれません。それを裏付けるようにEVに対する本格的な取り組む姿勢を見せないトヨタ等の本音が、以下の文中に見ることができます。ガソリン車が将来すべてEVに置き換わるはずはありませんが、ガソリン車の心臓部のエンジンがモーターに置き換わると、産業構造=下請け構造が大きく変わってしまい、不都合が生まれてくるに違いないからです。

トヨタは、ガソリンを燃料とす る自動車で圧倒的な強みを持つだけに、世界を走る自動車が電気自動車に置き換わると、これまで内燃機関で培ってきた技術力が役に立たなくなってしまうところだった

日本で最初の市販車、三菱のi-MiEVが2009年7月に法人向けに発売されてからまだ5年しかたっていません。「EVは本当に普及しない3」(2013/03/15)にも書きましたが、ハイブリッド車プリウスの例からいうとEVは,このままの販売数があと2年続いても,普及期までの助走期間だといいわけできなくもありません。

著者自身が、「燃料電池車が本格普及するのは、10年以上先になる」と言っているにもかかわらず、発売後5年しかたっていないEVへの、なんとあきらめの早いことか。タイトルにあるように「100年後」を見すえての考察のはずですから、もう少しさまざまなデータを検討するなどした慎重な考え方が必要でしょう。

燃料電池車が普及する前に、まず、ハイブリッド車・・・や プラグイン・ハイブリッド車・・・が世界的に普及するだろう。深刻な大気汚染に苦しむ中国も、ようやくハイブリッド車の導入に前向きになってきた

詳しくはわかりませんが、以下の情報によると中国で出している「新エネルギー自動車普及応用を推進する通達」に、EVへの補助額はあっても、ハイブリッド車には言及していないそうです。「ハイブリッド車の導入に前向き」というのは、検証する必要があるかもしれません。

リンク: トヨタ、中国新エネルギー自動車新政策から外れる | 新華ニュース 中国ビジネス情報.(2014/07/11)

著者は、「過去5年で、電気自動車への期待が低下した背景を説明する」として、ガソリン車などと各種のデータを比較していますが、その中の航続距離は、EVの場合それが短いことは発売時からわかっていたことで、「低下した」の要素になりうるのか、はなはだ疑問です。

販売価格は高くなりますが、電池をたくさん積めばガソリン車でいう「500キロ」もEVで可能となることを著者はご存じないのかもしれません。たとえば、テスラのモデルS85(933万円)は502kmの航続距離 (NEDC)があるとしていますし、日本EVクラブ製作の「ミラEV」は,電池容量74kWhで1003.184kmも走っています。

航続距離については、日本EVクラブ代表の舘内端さんの言葉、「EVを使ってみた側には航続距離はあまり問題にならない。これから使おうという人には大きな障壁になる」が当を得ています。

インフラでは、EVは△になっていますが、「EVドライブ」、考え方を変えてみては?(2014/06/18)に書いたように次世代自動車振興センターの集計によれば、2012年度、EVとPHVの合計で約5万6,000台に対してハイブリッド車だけで約285万台とあります。ハイブリッド車だけと比べてもEVとPHVの割合は約2パーセントしかありませんが、急速充電器(7月12日現在、2522カ所)の割合は約6パーセントもあります。「日本充電サービス」 が設置を目指している急速充電器「年内に計1万2千台の増設」となると現在のガソリンスタンド数の3分の1にもなりますから、EVの実数からすれば過剰ともいえます。○に近づいていると言えるでしょう。

燃料充填時間では、急速充電(著者の記述によると「高速充電」)でも30分かかり長すぎるとしていますが、急速充電はMグレードの利点?(2011/08/28)に書いたように10.5kWhと電池容量が小さいi-MiEV Mグレードでは約17分間で95%充電が可能です。車種や電池によって充電時間は変わってきます。著者はこのようなデータはお持ちでないでしょう。

著者は、EVが「ガソリン車並の利便性が確保できるメドはない」と言いきっていますが、低価格で高性能のマグネシウム電池を開発 京大など:朝日新聞デジタル.(2014/07/11)にあるように低コストで安全性が高く、航続距離を伸ばす電池が「本格普及」を求められる残り5年で開発されないと言いきることは逆に難しいでしょう。ましてや、「ガソリン車並の利便性」などという曖昧な言葉でEVをガソリン車と同じ土俵に乗せて比較することは無意味で、EVのデメリット(2013/06/29)に書いたようにEVは現在でも優れた面がたくさんありますから、すみ分けていくことが重要でしょう。実際に、自動車を一人1台所有するのが普通の田舎に住む私は、家族が持つガソリン車とEVとを利用方法に合わせて使い分けています。

燃料電池車の一番の問題である水素ステーションの整備は全く進んでいません。2014年2月17日現在、水素ステーションは全国で17カ所だそうです。

いじわるな見方ですが、最後に以下のように述べて、間違った予測になってしまったときの保険はしっかりとかけていらっしゃいます。「ただし、技術開発競争は、いつで も大逆転が起こる可能性があり、安心しきることはできない」

このような記事がいまだに載ることからもわかるように,一番EVの売り上げを妨げているのは,EVに対する様々な「思い込み」であると私はいまだに考えています。