2013年6月28日に新エネルギー 産業技術総合開発機構から「次世代自動車の国際標準化に関する検討(電気自動車の電気エネルギー貯蔵としての機能等に関する検討)」に係る公募についてなるものが告知されました。その中に「電力網と連系した電気エネルギー貯蔵としての機能や、自然災害などの非常時の電源としての機能など、新たなマーケットニーズへの対応が急務」との内容が示されていましたので,「EVのデメリット」を改めて修正していします。(2012/09/17に初公開したものを2013年1月19日加筆,今回改訂し再修正)

2013年1月17日に発表された日産リーフの値下げをきっかけに,EVの実態を誤解した書き込みが多く見られます。そこで,あらためて問題点を整理してみました。(1月17日・18日の2日間で2000件を越えるアクセスがこのブログにありました)

EVのデメリットとして以下のようなものが取り上げられることが多いようです。
1) 価格が高い
2) 走る距離が短い
3) 充電時間が長い
4) 充電のためのインフラ不足
5) 寒冷地でのバッテリ性能低下
6) 坂道に弱い
7) 車の種類が少ない
8) 「節電」中に「電気」を自動車に使っている(電気代がかかる)
9) 電気も石油資源で作っている
10)EVの普及がすすめば原発が必要になる

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1) 価格が高い

軽自動車規格のi-MiEV(アイミーブ) の廉価版 Mグレードでも国の補助金受給後の支払い価格が198万円ですから,軽自動車としては確かに高いものとなっています。しかし,「1万キロ走ったところ1kmで○円」に書いているデータを元にすると毎年約9万4000円分のガソリン代が浮きますから,国の補助金の縛りがあってEVを売ることができない4年間でそれは約37万円にもなります。ですから車両価格が198万円と言っても37万円分のガソリン無料券込みの値段,約160万円の軽自動車だと思えば,100万円を下まわる軽自動車が多い中でもそれほど高い買い物ではないでしょう。(160万円はやはり高いか^_^;)

グレード/補助金差し引き価格(2012年度→2013年度)

三菱 i-MiEV
G / 284万円→295万円
M / 188万円→198万円

MINICAB-MiEV(商用車)
CD 10.5kWh / 173万円→184万円
CD 16.0kWh / 207万3500円→210万円

MINICAB-MiEV TRUCK(軽トラ)
VX-SE 10.5kWh / 139万8000円 →157万8000円

アウトランダーPHEV
G Premium Package / 391万500円→399万7000円
E / 289万4000円→302万4000円

日産 リーフ
S / 220万9350円


EV車とガソリン車とのコスト比較(2011/09/04)

価格が高い一番の原因は,電池が高いことにつきます。販売価格に対する電池の値段の割合は公表されていませんが,リーフやi-MiEV発売初期には車両価格の半分ほどにもなると言われていました。しかし,量産効果などにより車両価格の4分の1以下になっているとの情報もありますから,これからは,リーフが2013年4月から約28万円価格を引き下げるようにマイナーチェンジされるたびに徐々に価格は下がっていくのではないでしょうか。(2013年6月段階で電池の種類にもよるが,1kWhあたり4万円くらい

2) 走る距離が短い

500キロ走るガソリン車と比べれば,i-MiEV Mグレードの実質的な航続距離100キロ(暖房を使う冬場を除く)が短いのは明らかでしょう。リチウムイオン電池24kWhを積む日産リーフでも航続距離は,JC08モードで約228キロですし,2012年8月31日よりリース販売が始まった電池20kWhのホンダ「フィットEV」は225キロです。

冬以外であれば,時速60キロまでの一定速度で回生を上手く働かせながら走らせることができるとi-MiEV Mグレードでも100キロ以上走らせることができます。(2012年8月25日,i-MiEV Mグレードで充電後に航続可能距離表示が134キロを表示)

0825imiev

2013年4月14日,充電後に航続可能距離表示が136キロを表示

日産リーフであと100キロ走れば買うのにと言う人がいますが,i-MiEV Mグレードでの一充電距離100キロでも短いと考えるかどうかは使い方・考え方によるでしょう。私は家族の中でセカンドカーとしてのガソリン車を持っていますから,長距離はガソリン車とすみ分けていますが,往復約30キロの毎日の通勤と休日の街乗りで今のEV(i-MiEV Mグレード)に不便を感じたことはありません。

また,「EVは長距離移動に使えない」というのは思い込みに過ぎません。充電時間が余分にかかったり,電池の消耗を考えると速く走ることができなかったりと制限はありますが,15分から30分ほどで電池の約80%を充電する急速充電器を使えば,距離を伸ばして移動することができます。(i-MiEV Mグレードでは,「航続可能距離表示」が残り10kmの状態から,約17分間95%充電で「航続可能距離」114km表示

この急速充電器は全国に設置され始めており,2013年6月5日現在(CHAdeMO協議会)1677箇所あります。これらの設備を利用して,東京大阪間を往復したり,静岡から北海道稚内までを往復したりする人も出てきています。

2013年中に量産開始する予定のSIM-DriveSIM-WILは351キロを記録していますから,将来的にはEVの航続距離は一充電で長距離移動ができるまでに伸びていくことでしょう。

ただ,冬場に暖房を使うと極端に走行距離が短くなることは,EVの一番のデメリットです。

エンジン車は暖房にそのエンジンの余熱を利用していますが,EVのモーターは利用できるほど熱くはならないために貴重なバッテリー内の電気を熱に換えて暖房に利用しています。(ヒートポンプ式エアコン)ですから,熱源となる分バッテリーの電気は減り,走行距離は短くなります。(エアコンでも冷房は暖房と比較して電気の減りは少ない)

このために電気の使用量を減らすには,暖房を使わないことが一番であり,厚着をしマフラーに手袋と膝掛けをすれば,EVで唯一最強のデメリットは見事に解消されます^_^;

3) 充電時間が長い

「充電時間」は,「普通充電」と「急速充電」の2つに分けて考えなければなりません。

100Vや200Vの「普通充電」では,充電時間がかります。たとえば,10.5kWhの電池を積むi-MiEV Mグレードでは200Vで約4時間半 ,24kWhの電池を積むリーフでは約8時間 です。しかし,これも走行距離と同様に考え方次第でしょう。

車を駐車している時間は,自宅などの場合であれば8時間を越えるでしょうから,その間に携帯電話のようにコンセントに差しておくだけで充電は完了します。ただ,「毎日充電では手間がかかって仕方がない」という書き込みもネット上にみられます。携帯電話を充電する作業が手間だと言われれば,EVの充電も面倒でしょうが,帰ってきてコンセントを充電口に差すことは,少なくともセルフスタンドで給油することに比べたら手間ではありません。

もう一つの「急速充電」では,日産リーフで警告ランプがついてから80パーセント充電に約30分かかります。(急速充電は負荷が大きいために日産ではこのパーセンテージ以上の充電をすすめていない)また,三菱i-MiEVのGグレードでも約30分,電池容量がリーフの半分以下のMグレードでは約15分と公表されています。

ただし,一般的にガソリン車でも警告ランプがついてからガソリンスタンドに行くようなことはまれで,普通は残りが少なくなってくればスタンドへ 行くでしょう。同じようにEVも残り数目盛というところで充電すれば,上記の時間よりも充電時間はもっと短くなります。

私のi-MiEV Mグレードでは,バッテリー残量計0目盛から85%で約14分,95%充電(約114km走行可能と表示)で約17分となっています。0目盛でなければ,充電時間は10分でも可能です。

4) 充電インフラ不足

充電の基本は自宅と考えた場合,インフラ整備といわれるものは急速充電器の設置ということになるでしょう。2)に書いたようにその急速充電器は全国に設置され始めており,2013年6月5日現在1677箇所あります。この数が多いのか少ないのか。実際には,自治体やメーカーの取り組みには温度差があり,CHAdeMO協議会 都道府県別 設置数一覧によると神奈川県は2012年9月7日の143カ所から2013年4月5日には172カ所にも増えているのに比べ,奈良県には5カ所から7カ所と2カ所しか増えていません。つまりインフラ不足が解消されつつある県もあるが,まだまだ不足しているところもあるというのが実態です。

そこで,次世代自動車戦略研究会では,2020年までに急速充電器5000基設置を目指すとしていますが,それ以前に2012年度補正予算で急速充電器3万5700基分を設置するとの計画も示されています。

携帯電話が繋がりにくいといっても流行のスマートフォンを買い求める人はたくさんいます。そのつながりにくさの解消のために電話会社は基地局の設備増強や新設に励んでいます。EVでもEVの走りの面白さや魅力が人々に伝われば,買い求める人が増え,インフラの整備も進むことでしょう。鶏が先か卵が先かのように充電インフラが整備されていないからEVが普及しないと考えるのではなく,まずはEVの楽しさを理解してもらうことが重要で,その結果としてEVの増加,急速充電器の整備へと結びつくのではないかと考えています。

5) 寒冷地でのバッテリ性能低下

2012年の1月から3月にかけて雪の多い中でひと冬を走りましたが,私のi-MiEV Mグレードでは,バッテリ性能の低下は実感しませんでしたし,2013年の1月でも同じです。北海道などの極寒冷地では性能の低下はあるかもしれませんが,それは急速充電時のみのようです。以下,日産リーフのQ&Aにあった項目です。

○低温時は充電時間が余計にかかりますか?

200V充電の場合は、温度による影響はほとんどありません。ただし急速充電の場合は、低温時、必要な充電時間が変わってきます。

逆に,夏場,電池の冷却装置のついていない日産リーフは熱に弱く,性能が低下することがあるようです。(日産リーフ 三菱アイミーブの所有者ブログ)

6) 坂道に弱い

この場合の「弱い」には2つあって,登坂能力の面でEVは坂道に弱いと考える人は,あきらかにEVに乗ったことがない人でしょう。モーターはアクセルを踏んだときから力強く走り始めますから,ガソリン車よりも坂道に強いといえるでしょう。

この坂道の件に代表されるように,頭でわかっていたとしてもEVは乗ってみてはじめてその良さのわかる車ですから,まずは乗ってもらうことが誤解を解く近道です。日々,車にかかわっている人でも結構EVには乗ったことがない,というのが実態でしょう。

EVは,登坂能力という面では坂道に強いですが,以下のページに書いたように電力消費という面では坂道にはとても弱い車です。登り坂は電気の消費がはげしく,平地よりも走る距離は極端に短くなります。ここのところは坂道を力強く登るEVといっても,走らせるときに注意する必要があります。

山のぼり(2011/10/01)

山のぼり」にも書いていますがEVは,頂点まで上ってしまえば下り坂ではモーターで発電(回生)をしながら走ることから,減っていた電気量が増えていくというガソリン車では考えられない面白い状況になります。

7) 車の種類が少ない

2012年8月27日現在,EVへの改造車を除けば,市販で買うことができるのは普通車の日産リーフ(3グレード)と軽自動車の三菱i-MiEV (2グレード)・ミニバンタイプの三菱MINICAB-MiEV(2グレード),三菱MINICAB-MiEV TRUCKタケオカ自動車工芸のREVAiなどです。(ただし,REVAi はリチウムイオン電池対応になっていないために2012年度の補助対象車両となっていません)

ミニEVは,タケオカ自動車工芸のT-10やトヨタ車体コムスらなどが発売されています。

その他には,ホンダのフィットEVやマツダのデミオEVもありますが,現在は地方自治体や法人向けだけですから一般的ではありません。トヨタは,iQ をベースにしたFT-EVIIIやRAV4 EVを計画していますが,日本での販売はまだありません。SIM-Driveは,2013年中に量産開始する予定のSIM-WILがあります。今は種類が少ないですが,今後,車種は増えてくると思います。

8) 「節電」中に「電気」を自動車に使っている(電気代がかかる)

節電と電気自動車(2011年12月29日)にも書きましたが,今の「節電」は,「電力ピークを押し下げる」ためのもので,電気の「節約」「省エネ」とは少しニアンスが違います。EVが「節電」に反するという人は,ここを混同していると思われます。

また,実際にかかったコストでガソリンと電気とを比べてみると「無駄」をはぶいて「節約」していることがわかります。

たとえば,うちのi-MiEV Mグレードが2011年8月18日から12月28日まで133日間で乗った距離は4428kmで,その間EVが使用した電力量は516.7kWh,電気料金は6286.376円でした。(オール電化住宅の夜間割引プランである関西電力の「はぴeタイム」を利用。この時期と2013年1月との電気料金に差はない。2013年春から値上げ予定)この電気料金を走った距離で割ると以下のようになります。

約6286円 ÷ 4428km = 1.42円/km

ガソリン1L=147円(2012年1月18日全国平均価格)としてこの147円分でどれだけ走るか計算すると約104km/Lとなります。これだけみても30km/L 走ることができると胸を張るハイブリッド車や第3のエコカーと呼ばれる車と比較してもいかにEVが効率がよいかがわかります。

節電社会にこそ電気自動車を(PHP 研究所 2011年09月12日)清水 浩(リンク切れ)

9) 電気も石油資源で作っている

8)の実際にかかったコストで示したように,うちのi-MiEV Mグレードの燃費(電費)はガソリン換算で1リッター約104kmです。i-MiEV と同じサイズの三菱アイが約15km/L走ると仮定すると,その燃料消費量は7分の1(104km/L ÷ 15km/L = 6.9)ほどに「節約」できることになります。

結果,節約できた分の石油を他に回したり発電に回したりすることができるでしょう。EVの利用は,石油資源の無駄を省くことにつながるともいえます。

10)EVの普及がすすめば原発が必要になる

2012年10月時点で約3万台のEVが国内に走っていると考えられます。これが100万台となり,夜間(23時〜翌朝)に一斉に普通充電を始めると仮定すると電力量はどれくらい上がるでしょうか。

家庭では200V15〜20Aが一般的な数値ですから,EV1台が1時間で必要とする電気量は 200V×15A×1h=3000Wh=3kWhとなります。それが100万台分ですから1時間で300万kWh,これは多いように思えますが,全国に分散しての数値ですからそう多くはないでしょう。(充電時間は電気をほとんど使い切ったところから充電したとして4〜8時間だから,満充電時に最大限300万kWh×8h=2400万kWhを必要とする)

もし,東京電力管内だけにEVが100万台があったとしても,東電の火力発電所だけで約3277万kW(1 時間発電して3277万kWh,8時間で26216万kWh)の発電能力があるそうですから,その10%ほど電力消費量が増えることになります。しかし,この電力消費量なら、比較的発電能力に余裕のある時間帯(23時〜翌朝)での充電ですから負荷はかからないでしょうし,発電能力内ですから発電所を増やす必要もありません。ですから「原発」は全く必要としないといえます。

ただ,電力会社は新たにEVへの充電のために発電しなければならず,その分コストが上がってしまうでしょうが,日本の国として考えた場合には(9)に書いたように7分の1ですむことになります。

EVの普及がすすむということは,デメリットどころか多大なメリットになるかもしれません。なぜなら,昼間にそのEVが動いていなければ天候に左右される太陽光発電や風力発電の安定化(スマートグリッド)に貢献できますし,何よりも100万台分の満充電で最大2400万kWhの電気を市中に蓄えておくことができるからです。自然破壊が懸念される揚水発電ダムのようなものを莫大な資金でつくることなく,多くは市民の資金で購入されたEVに電気を貯めておくことができるからです。

東海・東南海・南海地震など大災害時には,沿岸部にある多くの発電所が停止することが予想され,その場合の電力不足が心配されています。このような時にもリーフが積む24kWhの電池容量があれば,一般家庭の2日分の電気をまかなうことができると言われていますから,リーフが100万台あれば100万軒の2日分が備蓄できていることになります。(三菱アウトランダーPHEVは,電池12kWhの満充電とガソリン満タン状態で最大約10日間の発電が可能)

主要な火力発電所、地震高確率地域に6割(2013年2月2日)朝日新聞

いつ来るかわからない災害に備えるため固定された発電機を用意しておくよりも,メンテナンスや利便性に優れたEVを普段から走らせておいた方がコストを抑えることができるでしょう。いろいろなリスクを分散させるためにも,EVの普及はこれからますます重要になってくるかもしれません。

リンク: NEDO:「次世代自動車の国際標準化に関する検討(電気自動車の電気エネルギー貯蔵としての機能等に関する検討)」に係る公募について.(2013年6月28日)

電気自動車については交通手段としての機能だけではなく、電力網と連系した電気エネルギー貯蔵としての機能や、自然災害などの非常時の電源としての機能など、新たなマーケットニーズへの対応が急務