25日は,滋賀県立大の公開講座を聴きに行ってきました。タイトルは「エンジン自動車と電気自動車 ”淘汰”か”共存”か」というものです。
講義された教授の結論から書くともちろん”共存”なのですが,”共存”というより私は”すみ分け”の方がぴったりと来ると常々思っています。
会場には受講生の方が100人前後おられました。講義の概要には「身近になりつつある電気自動車」とありましたが,EVに乗ってきたのは私一人のようで,EVが「身近に」ない方々にEVの真の姿が伝わるかどうかが最大の関心事でした。大学の先生の講義ですから,数字やグラフなどを提示しながらのお話でEVの可能性と課題は理解しやすいものでしたが,その中の数字などについて少し疑問に思ったものもあったので書いておきます。(EV乗りとしてはEVよりのバイアスがかかっています^_^;)
EVの可能性(メリット)については,以下のようなことでした。
- 加速がよい
- 走行中,CO2は排出しない
- 1km走る時のエネルギー消費量はガソリン車の1/4ほどである
- 走行燃費(電費)はガソリン車の1/6ほどである
この他にも私が考えるメリットは以下のような点があります。詳しくは下のリンク先をご覧ください。
- 維持コストが安い
- エンジンによる騒音を下げることができる
- ガソリンの消費を抑えることができる
- 電気を蓄えることで災害への備えになる
EVとガソリン車とのコスト比較(2011/9/4)
EVのデメリット(2013/1/19)
講義で話されたEVの課題は以下のものでした。
- (油田)採掘から走行までを考えるとEVはガソリン車よりもCO2排出量は多い
- 原子力発電がほとんど再稼働しない中で,EVの電気を何で発電するか
- 電池(リチウムイオン)はガソリンなどと比べエネルギー密度は非常に低い
- インフラが不足している
- リチウムイオン電池は高い
- リチウムイオン電池の寿命は短い
1で示されたグラフでは確かにEVのCO2排出量は多くなっていましたが,よくみるとそれは「石炭火力」によるものでした。教授が他で示されたデータ(電気連合会2011年)にもありましたが,発電には石炭ばかりでなくそれと同等の割合で「天然ガス」も使われているようですし,「石油」そのものを使っても発電しているようですから,他の火力との比較データが必要ではないかと思いました。
検索してみるとCO2排出量割合は石炭:石油:天然ガス=10:8:6になるというデータがありました。そこで,データにあったCO2排出量を石炭の6割に置き換えると,EVのWell-to-Wheel(採掘から走行まで)はガソリン車はもとよりディーゼル車よりも低いという結果になりました。(天然ガスの液化は高コストでCO2排出量も多いかもしれませんが)
そのCO2排出量比較のグラフは,2004年にトヨタ自動車・みずほ情報総研が出しているとの但し書きや,ハイブリッド車の優位性示しているところから,EVの電気の元を「石炭火力」としていることに別の意味で納得しました。
2.時間単位での出力調整が難しい原子力発電は夜に電気を余らせてしまうので,その電気の活用方法としてオール電化住宅の推進やEVの活用がいわれましたが,ほとんどの原発が止まっている現在,EVを夜間に充電しようとしたらCO2排出量が多い電源で発電するしかないという説明でした。
しかし,先に示したようにCO2排出量が少ない天然ガスが一つの解決の糸口になるでしょう。教授が示されたデータでも2011年段階で日本の電源別電力量構成比で天然ガスは25パーセントほどを占めていますから,現在ではもっと多いでしょう。また,アメリカのシェールガスには触れられませんでしたが,これも将来は有望なのではないでしょうか。(採掘方法は環境に負荷をかけるようです)
3の密度が低い結果として,1回の充電で走ることのできる距離が短いということになります。ですから,日産リーフの約200キロでも走行距離としては希望する長さに足らないので,距離を延ばそうとすると充電しなければならないのが課題だということでした。
この課題は,私が実践しているようにガソリン車とEVとを用途に合わせて使い分けることが出来ればすぐに解決します。これはセカンドカーがあるというのが前提ですので,本当の意味での解決にはならないといわれるかもしれませんが,往復約30キロの毎日の通勤と休日の街乗りでEV(三菱i-MiEV Mグレード)に不便さを感じたことはありません。車のある環境と考え方次第でしょう。
4の「インフラが不足している」については,講義中におっしゃっていた「200キロではもの足りない」も同様ですが,EVは長距離には向かないというのも思い込みに過ぎません。滋賀県内でも間もなく名神高速道路の草津PA上下線に急速充電器が設置されますが,これを合わせると20カ所も15〜30分で充電することができる充電器がそろうことになります。全国でも(CHAdeMO協議会)2012/9/7の1318箇所から2013/4/5には1677箇所に増えています。インフラは着実に整備されつつあります。
EVのデメリット(2013/1/19)
5については「EVがクリアすべきハードルは高い?」(2012/7/7)に書きましたが,電池価格は噂によるとEV発売当初の半分以下になっているようです。それでもEVの本体価格をそれに見合っただけ下げてこない自動車メーカーは本当にEVが売りたいのか疑問に思いますが,それなりの戦略もあるのでしょう。電池の量産化が進めばコストが下がってくるのは当然の成行でしょう。
EVの現状と将来展望(一電池屋の視点)(2013/5)EV/HEV Commercialisation Japan 2013 | EV Update
6の「リチウムイオン電池の寿命が短い」点については,上のリンク先でも述べていますが,東芝の「SCiB電池」などは劣化速度がとても緩やかになっているようです。携帯電話などのリチウム電池のイメージとは全く別のものです。
私のEVのように約1年9ヶ月でおよそ19000キロ走行するような使用方法では,元の90パーセントとなる充電3000回までに約8年以上もかかることになります。
EVは本当に普及しない3(2013/03/15)
結論として,人々は「長く走って安いならばガソリン車」を選択し続け,将来にわたってもガソリン車とEVとは共存していく,2030年でも車両価格が高いEVの割合は10パーセントにも満たないであろうとの教授のお話でした。しかし,EVに2年近く乗っての実感として普段の街乗りでEVは十分な性能がありますし,長距離を走ろうと思えば今でも走ることができ,さらに充電環境は整いつつあります。以下のリンク先に書いているように一見最初に払うお金は高いEVですが,長い年月乗れば乗るほどトータルコストは安くなります。ところが,最初に懸念したようにEVが身近でない人にとって,このあたりが伝わったかどうかは少し疑問な講義でした。EVが売れてこない理由は,今回の講義にあったようにEVのよさがなかなか伝わっていかないところにあると考えています。
EVとガソリン車とのコスト比較(2011/09/04)
あと2つ気になったことがありました。1つは私の聞き間違いかもしれませんが,「一般家庭で200Vは来ていない」とおっしゃっていたように思うのですが,現在の一般家庭では,200V単相3線式という方式で電気が引き込まれていますから,200Vを取り出すことは容易です。クーラーや食洗機の配線は200Vになっていることが多いと思います。この200VでうちのEVは充電されています。
もう一つは,石油の「ピークオイル」の話がありませんでした。教授はバイオエネルギーを研究されているようなので,よくご存じでしょうが,石油資源が掘り尽くされつつあり今後は採掘量が減っていくのではないかという説です。素人には真偽のほどはわかりかねますが,どんな資源でもいずれなくなるものですし,1km走る時のエネルギー消費量がガソリン車の1/4ほどであるEVによって石油資源の寿命が延びるのであれば,それはそれで”共存”の意味は大きいと思います。
コメント
コメント一覧 (2)
「選択」という道はないのでしょうか?
メーカーもユーザーと同じようにエネルギーを「選択」する時代がきているような気がします。
なぜなら、メリットかデメリットかわかりませんが、ご存じのように電気自動車はエンジン車と比べて構造が簡単らしく、現実に中学生が、電気メーカーや繊維メーカー等異業種が電気自動車を造っています。自動車産業<日本の産業が変わる。
ユーザーとしての私は、高価なリチウム電池に替わる安価な電池の開発が、今後の電気自動車普及のポイントかなと無責任に思っています。
「すみ分け」なるほど。
(Webマスター:コメントありがとうございます。
エンジン車ではなくてEVに乗っている時点で「選択」していますね(^O^)
これから電気を買うときには,いずれ少々高くても再生可能エネルギー由来のにするかそうでないかの選択をすることになるでしょう。同じように車もユーザーで選択する時代に入っていくと思います。すでに始まっていますが(^O^))
EVは近場の乗り物として軽自動車に限定すれば理解されるでしょう。最近発表された日産・三菱の新型軽にEVがなかったのはガッカリしました。リーフのようなサイズはアウトランダーPHEVのようにシリーズHV化する必要があるでしょう。
画期的なバッテリーが発明されない限り、中小型車以上はPHEV、超小型車だけがEVという役割分担になるかと。
(Webマスター:暖房を入れたときの電池の減りは大きなものがありますね^_^;
おっしゃるようにすみ分けが進むかもしれません。)
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